晩夏

揺れる船に響く誓いを

『染、色』に想いを馳せる

 

5月1日 17時11分 1通のメールが届いた。

 

大好きな人の舞台の 中止のお知らせだった。

 

 

 

 

 

 

舞台といっても役者として登壇するわけではなかた。加藤さんの書いた小説の 初めての戯曲化だった。『脚本家・加藤シゲアキ』の初めての作品だった。

 

 

それが、無くなってしまった。

 

 

 

 

 

【「染、色」中止のお知らせ】

新型コロナウイルスの感染状況とそれに伴う政府及び関係機関、各自治体等の方針に鑑み、以下の全日程を中止することといたしました。

 

メールを開いたら、信じられない文字が目に飛び込んできた。信じたくなかった。いや、本当はちょっと前から予想していたのかもしれない。けれど、自分ではずっと見て見ぬふりをしてきたつもりだった、考えたら現実に反映されてしまう気がしたから。信じたくない一方で、「ついにきてしまったか、」という気持ちもあった。感情がぐちゃぐちゃになって、訳が分からなくなって、それから心の奥でじんわりと 漠然とした悲しみが広がっていくのを感じた。ああ、そうか、自担の、加藤さんの、初めての戯曲は見れなくなってしまったんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『染、色』の舞台化が発表されたのは3月上旬だった。

 

「NEWSな2人の最後に重大発表がある」

公式ツイッターがそう発表してから、TLでは様々な予測が飛び交った。私自身は「どうせ放送時間が変わるとかだろうな〜」なんて軽く捉えていて、放送もリアタイしなかったのだけれど。

 

 

 

次の日起きてびっくりする。

 

どうやら、加藤さんの小説が舞台化するらしい。

 

 

 

作家としても活躍するNEWSの加藤シゲアキが自身の短編で初の舞台脚本に挑戦! 

 

そんな見出しがツイッターに流れてきて、寝起きの頭に衝撃が走った。びっくりした。同時にすごく嬉しかった。嬉しかったって単純な言葉ではあるけれど、やっぱり純粋に嬉しかった。だって、それはきっと加藤さんがずっと抱いていた1つの目標であったと思うから。いつかどこかの雑誌で「いずれ舞台や映画にも携われたらいいな、なんて思います」とか言ってたような気がする。とにかく、加藤さんの積み重ねてきた1つ1つの努力がこうやってちゃんとした形になったことが、結果として浮かび上がったことが、本当に嬉しかった。

 

 

 

 

ホームページがあると聞いて急いで見にいった。

 


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ひと目見て分かった。ああ、加藤さんの字だ。

胸がギュンとした。好きだなあって思った。

綺麗に彩られたそのタイトルが一瞬で好きになった。

背景の色も可愛くて、アイシャドウに欲しい〜!なんで言ったりして(笑)

 

その後ちゃんとNEWSな2人を見て、だんだんと私の中で現実味を帯びてきたこの事実にさらに胸が高まった。すぐにツイッターで「誰か一緒に申し込みませんか!」って言って。「舞台なんて絶対当たんないよな〜ww 」なんて笑いながらも申し込む日にちを決めて。とにかく浮かれていたなあ。

 

 

 

 

 

『染、色』の舞台化が決まってから改めて 短編集「傘を持たない蟻たちは」を読み直して加藤さんの紡ぐ世界に浸ったり、主演の正門くんについて調べてみたり、と舞台化に関する情報をかき集める毎日が始まった。行けないんだろうな〜なんて思ってはいたけれど、それでもやっぱり「大仕事」が舞い込んできたことが、とっても嬉しかったから。自担、忙しいなあ、ふふふって思ってた。

 

 

 

 

 

 

 

4月6日 午後3時。

 

この日は『染、色』の当落発表だった。私は友達と遊んでいて(というか当選の期待を全くしていなくて)すっかりそのことを忘れていたのだけれど。

ふとツイッターを見て当落が出ていると知り、サラッとFCページを開いた。サラッと。

 

当選だった。

 

その場で大泣きして一緒にいた友達に本気で引かれた。知るか。ああ、加藤さんが作る世界に生で触れることが出来るんだ、めちゃくちゃ嬉しかった。その場で一緒に申し込んだ友達にも報告をした。ハテナマークがいっぱい返ってきた。それだけ舞台というものは当たりにくいもので。

 

 

『染、色』への期待がもっともっと膨らんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、ラジオやwebで加藤さんが『染、色』について話し始めた。

 

聞いている限り、加藤さんは私が思っていたよりもずっと忙しそうで、疲れているようだった。「大変ですねぇ〜…でもこの台本を待ってくれている後輩のためにも頑張らなきゃですね(笑)」なんて言っていて。ああ、加藤さんはこうやって笑いながら言っているけれど、実際は結構無理しているんだろうなあ、と感じた。

 

 

 

凄く心配になった。2019の冬あたりからずっと元気がなさそうで、今思えば全部仕事を抱えすぎていたからだったのかなあと思った。

 

忘れもしない2019年12月29日のSORASHIGE BOOK(加藤さんのソロラジオ)。この日は私の誕生日でもあった。 自分の記念日に自担のラジオがあるだなんて幸せだな〜!と呑気に聞き始めたラジオは テンション低めの加藤シゲアキのソラシゲブック〜」から始まり、後半になると喋り主の苦しげな声をポツポツと拾いだした。

 

 

 

加藤さんが「今日は多分これで終わっちゃうかなあ〜」なんていいながら読み出したメール。内容を簡潔に言えば 「お仕事がキャパオーバーになって余裕がなくなることってありますか?その時の対処法はなんですか?」だった。とてもタイムリーなそのメールに思わずドキッとした。

 

 

加藤さんの返答はとても深く、長く、ゆったりとしたもので、とてもここに文字起こしできる量ではなかったのだが、とにかく異質だったのを覚えている。普段はオタクもビックリ 超絶早口な加藤さんが、ゆっくりゆっくりと慎重に言葉を選んでいて、何より「しんどい…っすねぇ……」とハッキリ口に出していたのが印象的だった。自分は何でも抱え込んでしまって、それをなかなか手放せない性格だから、と。心や体が壊れてしまってからでは遅い、けれどやりたいことだけやっていられる世の中ではないから、沢山の物事が溢れている中で自分はどれを捨ててどれを選び取っていくかという見極めが出来たらいいんだけどね、と。

 

まるで自分に諭すような苦しげな声色に思わず涙が出そうになった。きっと加藤さんは自分とこのメールを重ねて読んでいたんだろうなあって思った。ゆっくり時間をかけて紡がれた返答は「動物とか子供の……癒される動画とか見て……ふふっ、いや、俺どんだけ追い込まれてんだって感じだけど(笑)」という言葉で締め括られていて、いや全然笑えないよ、心配だよ、何で無理して笑ってんの?って。思わず「ばーーーーーか!」って言ってやりたくなるくらいだった。やるせない気持ちでいっぱいになった。

 

 

きっと、いや絶対、この時の加藤さんは超多忙だったはずだ。金田一耕助のドラマの撮影にオルタネートの長編連載の準備、NEWSのライブツアー "STORY" の準備やエッセイの発売準備、さらには同時進行で連載も書いていて、それに加えて年末の歌番組や雑誌の撮影だってある。なんなら2020年7月放送予定のドラマの準備だってあったかもしれない。

 

 

私はそれらを何も知らずに「加藤さんもっとテレビでて欲しいな〜!お仕事頑張れ〜!」なんて思っていたのだ。加藤さんは他のジャニーズタレントに比べて、頑張りが見えづらいというか、努力の成果がファンに伝わるのに時間がかかる。分かっていたはずなのに、分かっていなかった。仕事が多いのは嬉しいし、沢山応援もしているけれど、私が無責任に応援すればするほど加藤さんは背負っているものの大きさに苦しむことがあるんだって気付かされて、とっても悲しくなった。

 

 

 

そんな加藤さんが、同じくこの時期に行っていたのが『染、色』の脚本作成。

 

 

それが、どれだけ大変なものだったか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月1日 午後5時。『染、色』の中止が発表された。

 

 

悔しかった。やるせなかった。加藤さんがファンに「しんどい」と言ってまで続けてきた仕事が、脚光を浴びることなく消えてしまった。

 

 

これから先、加藤さんの小説がまた舞台化されることがあるかもしれない。でも、『初の舞台化』『脚本家デビュー』は今回が最初で最後だったんだよ。『初』はもう2度と来ないんだよ。加藤さんの脚本家デビューも正門くんの初舞台主演も、全部全部無かったことになってしまうの?やだ、そんなの嫌だ、だって加藤さん絶対嬉しかった、自己肯定感ゼロ級の加藤さんだって、「自分の小説が新しい形で認められたのかな」なんて少しは思ったんじゃないの?少なくとも私は思ったよ。返してよ、なあ、なんでこうなるんだよ、全然意味わからないよ、ふざけんなよ、、、

 

 

 

茫然としたままホームページを見に行く。いつもURLを開けば浮かび上がってきた綺麗なタイトルは、「新型コロナウイルスの拡大に伴う公演中止のお知らせ」という表示によって汚されていた。文字通り、汚されていた。

 

スクロールすれば公演中止についての文章があり、さらに下を見るとintroductionが出てきた。ただただ悲しくなった。これを初めて見た時の自分は、まさかこの文章をこんな気持ちで読み直す時期が来るなんて、全く思ってなかったよ、悲しい、悲しいよ。

 

 

FCで公開された加藤さんの直筆メッセージも見た。画面いっぱいに癖の強い加藤さんの字が出てきて、ああこの字が好きだなあ、好きなんだよなあ、この人が好きだなあ、と思ったらなんだか笑えてきた。こんな時でも自担の字1つでハッピーになれるなんて、なんて単純な人間なんだろう。

 

すでに台本は完成しており、

自分としても納得の出来でしたので 

是非見ていただきたかった……

 

見たかった、私も見たかったよ、加藤さん。

加藤さんが必死になって生み出した世界、作り上げた舞台、この目で見たかったよ。

 

 

きっと加藤さんは、こうなってしまうことをなんとなく悟っていたんだろうなと思う。それでも少しの可能性にかけて、脚本を書き続けた。自分が苦しい思いをしながら、必死になりながら、やっとのことで生み出した作品が誰にも見られないまま終わってしまうなんて。どんなに辛いだろう、どんなに悔しいだろう、私まで勝手に悔しくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『染、色』の舞台化が決定してから今日まで、

本当に沢山の幸せを貰ってきた。沢山の夢を見ることができた。この事実はこれからもずっと変わらない。確かに『染、色』は、加藤さんの脚本家デビューは、ここにあったんだよ。

 

絶対に忘れたくない、忘れさせてたまるか。

どうにかして私の中に積み重なったこの記憶を書き残したい、そんな思いでブログを開きました。いろいろ書き溜めていたブログがあったのに、まさか2個目の文章がこんなテーマになるだなんて。

 

 

 

 

 

今、この世の中はイレギュラーだ。コロナに振り回されている。これは仕方のないことで誰かを責める事は出来ない。でも、一部の無責任な人たちのせいでずっとずっと努力してきた人が報われない世界が出来上がってしまった、と考える自分もいる。ああ悔しいな、悲しいな、私1人の力でなんとかすることが出来ればいいのに、残念ながらそんな力は到底持ち合わせていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加藤さん、沢山の幸せをありがとう。

そして、自作の短編小説の初の舞台化、脚本家デビュー、本当におめでとう。

 

 

 

今はまだ全てを前向きに捉える事は出来ないけれど。

いつか、『染、色』が沢山の人の目に触れる日が来ますように。いつか、この舞台に携わった全ての人の努力が報われる日が来ますように。

 

そう切に願って。